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ウイグル問題、太陽光発電に影、パネル主原料5倍に、供給不安、設置見直しも。

2021/07/04  日本経済新聞 朝刊  2ページ

中国・新疆ウイグル自治区の人権問題が、太陽光パネルの価格を押し上げている。主要な原材料であるシリコンの世界生産の約4割を新疆地区が占め、人権問題で供給に影響が出る懸念が浮上したためだ。シリコン価格は1年間で5倍近くに高騰。日本でのパネル価格も3~4割上がった。6月末にはバイデン米政権が中国メーカーへの制裁を表明し、懸念は現実のものとなった。

「パネルの価格上昇で収支計画が変わり、中小の発電事業者では投資を見直す動きが出てきた」。ある太陽光発電の設備工事会社は指摘する。投資額の約4割はパネルが占めるため、価格上昇は建設費に直結する。

中国シェア8割

太陽光発電コンサルタントの資源総合システム(東京・中央)によると、パネルに使われる多結晶ウエハー向けシリコンは2020年6月に1キログラム6ドル(約670円)台だったが、足元では27ドルを超えて推移する。

太陽光パネルの大半はシリコンを使う。半導体に使うシリコンほど高い純度は必要なく、その生産は世界シェア約8割の中国に集中してきた。その約半分が新疆地区でつくられている。

価格上昇の発端は20年夏、新疆地区のシリコン工場で火災や爆発事故が相次ぎ、シリコンが品薄になったことだった。関係業界はこれを機に新疆地区にシリコン生産が集まっていることのリスクを認識させられた。

ダメ押しとなったのはバイデン政権の高官が21年5月、強制労働を利用した疑いで中国製パネルを貿易制裁の対象製品に指定するか検討していると明らかにしたことだった。欧州でも中国製パネルを問題視する声があり、供給混乱を懸念したウエハーやパネルのメーカーが一斉にシリコンの在庫積み増しに動いた。

ガラスやアルミなど他の部材も値上がりしており、シリコンとこれらを組み合わせた太陽光パネルの価格にも上昇圧力がかかった。足元では世界のパネル生産の8割を占める中国製などの出荷価格は1ワットあたり0・22ドルと、1年前に比べ約2割高い。

日本での価格はそれ以上に値上がり傾向がみられ、大口取引の場合でも同30~35円前後と1年間で3~4割上昇した。「中国のパネルメーカーが中国国内への供給を優先し、日本への出荷を絞っている」(調査会社)ことも価格の上昇に拍車をかけているとされる。

米が輸入禁止に

日本国内にパネルを増産する余力は乏しい。日本製パネルはかつて世界シェア首位だったが、中国勢との競争に敗れ、パナソニックや三菱電機は生産中止を決めた。シャープや京セラも規模を縮小し、20年の日本製のシェアは0・4%にとどまった。国内需要の1割程度しかまかなえない。

米政権は6月23日、合盛硅業(ホシャイン・シリコン・インダストリー)、新疆大全新能源(ダコ・ニュー・エナジー)などシリコン部材を扱う中国の4社を制裁対象にすると発表した。4社に特定の米国製品を輸出するとき商務省の許可が必要になる。ホシャイン製シリコンを使った製品の輸入は禁じた。

米政府がホシャインのシリコンか否かをどう確認するのかなど運用方針は不透明で、現時点でシリコンやパネル価格に大きな影響は出ていない。ただ、欧州などにも制裁の動きが広がればシリコンやパネルの市況に影響が出る可能性がある。

中国製パネルを買う日本企業の中にはメーカーに新疆地区のシリコンを使っているかを聞いているところもある。だが否定されればそれまでで、日本側での検証は困難とされる。「新疆地区のシリコンを完全に排除するのは難しい」(中国パネルメーカー関係者)との声も上がる。

太陽光発電は安価な中国製パネルの利用拡大で設置コストが下がり、風力とともに再生エネルギーの拡大をけん引してきた。ウイグル問題は太陽光発電の要となる素材やキーデバイスを中国に依存している現状の危うさを浮き彫りにした。

 

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