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金融庁、脱炭素に資金誘導、気候変動対策、銀行の監督項目に、企業には情報開示促す。

金融庁は脱炭素社会の実現に向けた銀行や企業の取り組みを後押しする。気候変動対策を銀行の監督項目に追加し、企業が再生可能エネルギーの設備投資などで資金調達しやすくなるよう促す。企業には気候変動に関する情報を積極的に開示するように求める。

金融庁は21日、気候変動や社会問題への対応など持続可能な経済成長を見据えた投融資のあり方を検討する「サステナブルファイナンス有識者会議(座長・水口剛高崎経済大副学長)」の初会合を開く。全国銀行協会や保険業界のほか、経団連や学識者らが参加する。2021年初夏にも議論を取りまとめ、政府の成長戦略に反映する。

政府は50年までに温暖化ガスを実質ゼロとする目標を掲げる。金融庁は脱炭素社会の実現に向け銀行や企業に行動の変化を促す。監督指針などに気候変動対策を追加し、技術を持つ企業などに資金が集まりやすくする。温暖化ガス排出量の多い企業が低炭素化を進める過程でも必要な資金を調達できるようにする。例えばガソリン車の部品を製造する融資先が電動車に対応して事業転換をする場合にコンサルティングや融資の支援をすることが銀行に求められる。

銀行の融資先のリスクも点検する。融資先がハザードマップ上、洪水被害が起こる可能性が高い場所に工場を保有していれば、物理的に被災する恐れがある。中長期的に銀行が抱えうるリスクを分析し、対応策を講じるよう促す。

会議では脱炭素社会に移行する過程で企業に必要な資金が回るようにする議論を中心に進める。環境負荷の高い企業からの投融資の撤退(ダイベストメント)には踏み込まない可能性が高い。

ただ、日本の電源構成が火力発電に大きく依存する現状には海外から厳しい批判がある。3メガバンクは石炭火力向けの融資残高を今後ゼロとする方針を公表しており、海外の投資家や非政府組織(NGO)などから理解を得るための対応は加速しそうだ。

気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のような情報開示の枠組みを使って、企業の情報開示も充実する。上場企業に適用するコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)で気候変動がもたらす事業への影響の開示を強化するよう求める案がある。

コードには法的な拘束力はない。コードに従わない場合は理由を説明する。欧米では開示を義務化する動きが出ており、日本でも法定の有価証券報告書などへの記載を求める可能性がある。

企業が社債発行や借り入れを通じ脱炭素化に必要な資金を調達する際の指針もつくる。経済産業省や環境省と連携する。

各国の金融当局は気候変動問題を監督上の重要な課題だと位置づける。英国では銀行監督を担う健全性規制機構(PRA)が19年、金融機関の取締役会が長期的な気候変動リスクを勘案して事業戦略を練ったり、財務への影響を分析・開示したりするよう要請した。

欧州勢は環境対応で日本や米国の先を行く。英仏など8つの中央銀行と金融当局は17年に気候変動に関する世界の金融当局ネットワーク「NGFS」を発足。金融庁は18年、日銀は19年に加盟した。米連邦準備理事会(FRB)も20年末にNGFSに加わった。

英国が議長国を務める第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が11月に開催されるのを見据え、各国の政策対応が活発になっている。機関投資家は気候変動対策を判断の材料としており、日本もマネーを集めるための取り組みが欠かせなくなっている。

2021/01/20  日本経済新聞 朝刊  7ページ  1416文字  PDF有  書誌情報

 

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